自己満の味噌煮

小説書く。難しい。

男達の晩餐

※キャラ崩壊

 

「ああああぁあぁああぁ……」

一人の男がえらく長く、そして情けない声を出した。

その声の主はダハブ。くすんだ灰色の髪に隻眼隻腕の男だ。

渾名は「不審者」「ストーカー」「半裸」などがある不憫な男だ。

しかし反応が面白いのだから仕方がない。

そいつはもうべろんべろんに酔っていて、顔を真っ赤にしながら折りたたみ式テーブルの上に突っ伏してさっきから情けない声を上げてばかりいる。

そんなダハブを眺めていると、隣からそいつの頭に容赦なくチョップが繰り出された。

「おい、煩いんだが。黙らせれないのかこいつ……」

「痛くねぇ…お前筋力なさ過ぎ」

「5だからな……」

さっきチョップを繰り出し、現在ダハブの口を何処からか取り出したガムテープで塞ごうとしているグラデーションのかかった青い髪の男はヤド。

こいつもかなり酔っているようで、たまに呂律が回っていなかったり変な行動をしたりしていて危なっかしい。

この三人の中では最年少であるが、俺達とは容赦なく殺し合った仲だ。

ヤドとダハブ、そして俺…ザーヒルは祖国の紛争に紛れてお互いの欲望を押し付け合いながら何度も殺し合った。

今だってとても仲が良い訳ではない。

現在の俺達の居場所である“戯書”に来てすぐは、俺達は共同生活をしなくてはいけないことからどうしても一緒にいる事が多かった。

しかし少し経ってから、俺達はそれぞれに大切な者との再会を果たし、互いにいるよりかはその者達との時間を長く取るようになった。

…そうは言えど、俺はその大切な者といるより、一人の方が多いのだが。

 

そんなこんなと誰に向けるでもない独り言を心の中で呟いていると、ダハブがいつの間にかガムテープでぐるぐるに巻かれている。

「お前等何がしたいんだ……?」

「サーシャに会いたい……」

「そういうことを聞きたい訳じゃない。今現在この状況を見て何がしたかったんだと訊いている」

口を開けば惚気ばかりになったダハブを威圧しながら銃剣を向けると、苦笑いをしながらテープを片付けつつダハブはまた口を開いた。

「分からねーよ。俺がサーシャの話するとヤドが突っかかってくんだよ」

「うるへぇ俺のめるりが一番かわへえに決まっへるらろ」

「「何言ってるか分からない」」

もう完全に呂律の回らなくなっているヤドに偶然にも同時にツッコミを入れる。

俺がやれやれと溜め息をついている間にもヤドの暴走は続く。

「あのなぁめるりはなぁ二人もいてどっちもかわいくへな、どっちもかわいくへ、やばいんだぞ。やばい」

「もうこいつ駄目だろ……」

「…ダハブ、こいつ寝かせないか……?」

「だって一番可愛いのサーシャだろ?」

「ああもうお前等全員地獄に落ちてくれないか?絶望を見せてやろうか…?」

流石に腹が立った俺は二人に水をぶちまけた、そのまま頭を冷やしてくれるといいのだが。

どうしてこうなったんだろう、と二人が静かな間に酔いでぼんやりする頭で考える。

そう言えば俺達はヤドの彼女…同居人の一人、メルリがめでたくダハブの彼女になったらしいもう一人の同居人のサーシャの為に、こっそりとパーティーをやりたいと言っていて俺達はテントと酒とテーブルその他諸々を担いで外に出てきたんだった。

そうだったなぁ、と考えていると俺に水がかけられた。

驚いて顔を上げると目の前で二人がコップを持ってにやけている。

こんなに楽しげに協力している二人を見るのは珍しい、と言うより初めてだ。

「……ッ、ダハブお前」

「テメェも酔ってんだろ?何かぼーっとしてたし、誰かのこと考えてたんじゃねぇの?俺達のこと言えねぇだろ?」

「あれか…あれだろ…。あのかみしゃまだか何りゃかの…ざーひるがめちゃしゅきなやつひゃろ」

聞き取り難くはあったが、そのヤドの言葉が誰を差しているかすぐに理解した。

俺の一番崇拝しているあの方のことだ。

「魔神様のことか…?」

「あ?何だっけ魔神か知らねぇけどお前よく誰かを連れて本読んでるじゃねぇか」

「あるてみしあ…だったひゃ…?」

「………お前等」

其処までにやにやとして話す二人を見ていたが、俺は二人にもう一度銃剣を向けた。

「お前容赦ねぇな……何だよーじゃあ俺達の彼女の話聞くのかよオイ!?」

「そーらそーらぁ、話聞けよお」

二人で肩を組んでぶーぶー言っていて煩い。

多分聞かないとこのまま言及し続けるのだろう、こいつ等の口からあの人の名前が出る事すら汚らわしく感じる。

「…分かった。聞くから言え」

わざとらしく呆れた顔をしてやってから座り込み、拳銃を片付けて新しい酒を出すとダハブやヤドもすっかり機嫌を良くして一緒に座る。

そして俺達は二度目の乾杯をすると、また話を続ける。

他の場所で開かれているパーティーの裏で、俺達の晩餐は続く。

 

「でさ、サーシャマジ可愛いんだって。腹パンされたけどさ。ちょっと照れたみたいな反応も悪戯もなんか最近すげー可愛い。愛し過ぎる」

「めるりだってなぁ、かわいんだぞぉ。超かわいい、俺ににこにこするしぎゅうってするしな~~」

「……お前等、よく話のタネが尽きないな…。呆れを通り越して尊敬や関心に辿り着きそうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が寝静まった後、もう一度水を口に含んで一人で考えた。

あの方、アルテミシア…否、ホロヴァーレに対する俺の気持ちを。

俺はあの方をとても大切に思っていて、とても守るべき存在だと思っている。

それは俺が一番分かっているし一番そうしたいと思っている。

しかし最近はどうだろうか。

大切な者と傍にいる事が出来て幸せそうにしながら触れ合える、俺が一番憎んできた光景に妬みを感じる。

俺も大切な者といたいと感じるのだ。

俺の大切な者は紛れもないあの方、俺はあの方が汚れる事を許すことはないのに。

俺はあの方の純潔を守る為なら何があろうと良いと今でも思っているのに。

投げかけられた言葉によって嫌な考えが止めどなく溢れる。

俺はあの人の傍にいて、あの人に触れる権利などないのだ。

遠くにいて、俺だけはずっと汚らわしいままで、あの方を汚そうとするモノを全て消し去っていればいいだけだ。

 

 

 

ただ、褒めてもらうだけでもと望んではいけないのだ。

俺は寂しくなんかない。俺は悲しくなんかない。俺は触れたくなんかない。

そもそもその権利を持たない。

俺とあの方は生涯程遠い存在であり、傍にいられる筈なんてない。

だから俺は祈る。

「どうか貴女がそのまま程遠い存在で、居てくれますように」