自己満の味噌煮

小説書く。難しい。

存在理由と弟子のお話

「この方は、きっと幸せだったろう」
先生の口癖。

「この方は、優しい人だった。そちらは、勇ましい人だった。」
先生は、会ったこともない人のことをよく知っていた。
「よく、頑張りました」
先生は、知らない人の頭を撫でた。
とても穏やかな表情で。
そして先生は魂を冥界へと葬る。
先生は、生前に極悪非道の魔物だった者も、理不尽に殺された女神だった者も、よく頑張りました、よく頑張りましたと呟いてから葬る。
不才はよく分からず、そして肯定出来ないことがあった。
先生は何故、人の道を外れた者にも、深すぎる慈悲…それ故に死んだ者にも情を抱けるのであろうか、と。

「先生は、不思議な方ですね」
「どうしてかな?」
「慈悲は時に悪を生む…先生はどうしてそんなに、博愛で…慈悲を持てるのですか」
先生にこんなことは愚考である。
しかし不才は分からない。

先生は考える素振りを見せ、不才はゆっくり答えを待つ。
先生はこうおっしゃった。
「私は慈悲を持っているように見えるのかい」
「えぇ」
「私は、ただ頑張って生きてきた人々を褒め称えているだけだよ」
「では、何故…先生は極悪非道も諸悪の根源をも愛せるのです」
「愛してるんじゃない。生きてきた、その頑張った証を褒めているんだ。」
けらけらと笑う先生の考えが分からない。
汚く血で穢れた身体。
それを先生はじっくり眺め、そして撫でる。


「最初っから悪い奴なんかいなかった。
そら、本当だろう?」


脆くも崩れる世界を遠くから眺める不才に先生はけらけら笑った。
黒い何かを纏ったアレも、偽善に徹したコレも、書を乱雑にしたソレも。
元々は悪い奴じゃないらしい。






世界は変わらない。
穏やかな平凡が帰ってくるまでは。