自己満の味噌煮

小説書く。難しい。

笑った科学者

最近、この世界には穴が開く。
神様が怒っているのか、それとも天変地異か何か。
あまり神様を信じない私は、本当は来ない筈の依頼者をその穴からじっと待つ。
私は依頼者に、笑う。


笑った科学者


「師匠、今日も誰か来るの?」
「さぁ、ねぇ…」
最近近くに開いた、人が一人入れる位の穴。
その穴からは色々な人が落ちてくる。
ゼノン、ウォーズ、 神楽月、ズマ、K。
研究所は大分狭く、賑やかになった。

メキと二人ぼっちで進めていた研究も、四人も科学者が居ると凄く捗る。

ただ、少し気がかりなのは…
普通に此処に来た人々は帰れるのに、研究所に住んでいる人々は未だに帰れない人達。
私は今、そんな人々を帰してあげる為の研究をしながら依頼をこなしている。
私の時間が他人の時間を長く延ばせるのなら…
私は、あまり未練はない。
皆に笑顔を振り撒く、そして与える科学者になれるから。


ある日に悲劇が起きようとも、私は研究を続けた。
「全の目」という未来を少しだけ見れる目を持つズマは
私はいつか裏切られて死ぬと言った。
私は研究を続けた。
ズマもそれを手伝った。
多分、心底苦虫を噛みしめながら手伝ってくれた。
私は少し辛かった。
傍にいた仲間に裏切られることも、それを知っていて私を末路に導く仲間に嫌な思いをさせることも。
だけど私は研究を続けた。
笑って、笑って。


やっと完成したのは、私の墓場。
私が自分で築いた、研究の成果と末路。
それでも私に未練はなかった。
後ろを振り向く、死神は佇んでいた。
私は精一杯笑う。
残った人生分を、使う。
「やぁ、クキ。」
「…どうかしたの?」




「君を殺しに来た」
「…え?」

一生のなかの、最初で最後の演技。









彼女は笑った。
死ぬ前と、死んだ後に。
「私には、未練がひとつあるわ。








何で皆に重荷を負わせるようなこと、したんだろうって、ね」




願いは、響かない。