自己満の味噌煮

小説書く。難しい。

Innocent mind 40 「不穏な暗黒の場所で」

~ブリキの初代語り人~

 

「…可笑しいですね。」

私は落ち着かない人達に囲まれて逆に落ち着かない。

いつも私の膝の上に居たモデウール君も、珍しく居ない。

此処は辺りが真っ黒で其処まで遠くに行けない様に見える。

しかし此処はとても広く、何処までも行けるんじゃないかという位広い。

銅鑼君とフェルゴンさんは落ち着かない。

グルーブさんは何時も通りナノさんと話しに行っているらしく不在で、

ディシルさんは何か、名残惜しそうに小さく光の射す上を見つめていた。

アリアトさんも今はいないし、私はこの落ち着かない状況で如何すれば…。

私がキョロキョロと色々な所を見回していると、モデウール君が戻ってきた。

私は重い足枷を付けた足を動かし、モデウール君に近寄る。

「モデウール君、今まで何処に…」

「…始まる。」

「へ?」

「…ティーシェ、ついてきて。始まるよ。」

いつもの、まだ幼さを残した瞳は其処には無かった。

絶望に塗り潰された、希望の途絶えた眼。

私はモデウール君が初めて喋ったことより、其方の方が気になっていた。

おろおろしている私を、モデウール君が小さな手で引っ張る。

「…珍しく、冥界への許可が出るんだよ。」

「冥界への…?」

「冥界へ行けるんだ、一時的にね。」

「…へぇ…」

だから銅鑼君とフェルゴンさんが落ち着いてなかったのか、と納得する。

ぐいぐい引っ張るモデウール君を一旦止めて、何処まで行けばいいのかを聞き、そして先に行っててと言うとモデウール君は小さく頷いて、その小さな羽で軽く飛んで先に行った。

 

きっとアリアトさんと仲の良いグルーブさんにはもう情報がまわってる筈だ。

銅鑼君とフェルゴンさんもあの落ち着きのなさ、きっと分かってる。

だけどディシルさんは此処に来て殆ど誰とも話してない。

きっとこの事を知らない筈だから、私が伝えないと。

「で、ディシルさぁ…ん…はぁ…」

「あ?ど、どうしたじゃん。えーっと…」

「て、ティーシェ…です…」

「ごめん、ティーシェ。どうしたじゃん?」

初めて話しかけられ、戸惑いを隠せない目はどうしても罪人とは思えない。

何処か寂しそうな目。

私はこの人の何かを知っている訳じゃないけれど、きっと悪い人じゃない。

「冥界へ行く、許可が出るらしいんです。」

「ま、マジ?」

「えぇ…その、きっとディシルさんまだ聞いてないと思って。」

「そんなの聞いてねぇ…。有難うじゃん。」

苦笑いして私にお礼を言う彼。

「モデウール君、急いでいたのできっと時間がないと思うんです。早く行きましょ!」

「お!?お、おう!!行くじゃん!!」

さっきのモデウール君の様に彼の手を引っ張る。

彼は吃驚していたが、意外とノリ良くついてきてくれた。

 

 

 

「…こんな所あったんですね。」

「全部黒いのしかないと思ってたじゃん、俺。」

「私もです。こんな所があったなんて。」

其処にあったのは、上に登る為の台の様な物。

とても大きいし、上からはとても眩しい光が射しているのに

私達はこんな物がある事を、一度も気づかなかった。

それとも管理人さんや創造神の隠し方が上手いのか。

「…ティーシェ、手…」

「あ、ごめんなさい!」

「い、いや別にそういう訳じゃないじゃん。すまないじゃん。」

無意識にずっと握っていた手を離す。

久し振りに誰かの手に触れた自分の手は、温かかった。

私が低体温だからなのか…。

 

「皆さん来ましたね。」

「管理人さん…」

「おう、アリアトちゃん。許可が出たんだって?早く行こうぜ。」

「分かってます、くれぐれも冥界で変な気は起こしませんように。…何故許可が出たかは、ガーゴイル様からお話があります。」

私達は、その台の上に乗って冥界へと上がった。

 

 

 

 

 

 

 

~救世主の青年~

 

新しく始まった事件を、今は此処で傍観する事しか出来ない俺は此処をよく見回りをしている。

此処でだって油断はできないんだ。

俺が出来ることを、今するべきだから。

あいつ等の手伝いのヒントになる事があるかもしれない。

…俺は、絶対、この全ての決着を見届けなければ。

 

遠くまで来ると、何があったのか蹲っている人が見えた。

確かあの人は…四季の女神のプリマベーラ?

遠い昔に犯源神に殺されたと聞いていた。

凄く優しく穏やかな人で、笑顔を絶やさない人。

最初の印象はこうだった。

そんな人が珍しい、あんなところで蹲っているなんて。

此処では身体があるように見えるが、皆身体は無い。

ガーゴイルは冥界の主だからあるけど、他の奴等は魂が形を形容してるだけに過ぎない。

勿論、今見えるの俺の顔も、手も、足も、体全部。魂が形容しているだけ。

だから俺達に痛覚などは無い。

触った感覚とかはあるけど、お腹が痛くなったりとかは絶対にない筈。

…何か怖い物でも見たんだろうか?

俺は話しかけてみることにした。

 

「…プリマベーラさん。」

「……。」

「プリマベーラさん。」

「……………。」

「聞こえますかー!!!!!…ッ!?」

 

音をわざと付けるとすれば、ギョロリ。

そんな目が俺を見る。

いつものあの人の面影がない。

何となく、俺はヤバいと感じる。

俺は何も来ていないのに避ける行動を取る。

 

案の定だ。

彼女は振り向き、下に鋭く研がれた金属が落ちている。

彼女の虚ろな目が此方を射抜くように見つめる。

これはヤバい、そう思うと後ろから他の人が来る。

「どうしたの、物音立てて。」

「物騒ですねぇ。」

ガーゴイルは何処となく楽しそうな目でその金属を見つめる。

「こんな物、何処に隠し持ってたんでしょうか?」

それをガーゴイルが取ると、ふらりとプリマベーラが倒れた。

「うわぁ!!!」

「スピネル君何かしたの?」

「俺じゃないっすよ!!」

「取り敢えず、安静にさせられる場所まで運びましょうか。」

 

ガーゴイルのその目は何となく、全てを悟っていたかのようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 

 

 

 

 

まとめ

 

・罪人達、冥界へ。

・プリマベーラ倒れる。