自己満の味噌煮

小説書く。難しい。

蝉が鳴く日の憂鬱

彼が此処に帰ってくるのは本当に珍しい。
二つの身体を所有してる為、彼は忙しいのだ。
久しぶりに帰ってきた彼、蝉尽火様はとても憂鬱そうだった。
何時も明るく、煩いくらいの彼がそんな様子なのは珍しい。
明日の下界は雪が降るんじゃないか?
そう言えば彼は、あの鬼神様と交際を始めたとか何とか。
ならば、彼は楽しそうにしてる筈だと思うのだけれど…。
神々も、交際をするのは可笑しくない。
僕には全く、恋や愛は分からないのだが。
しかし、ヘルプ様やフェンガル様やテスカ様を見てて思う。
恋や愛とは、人を変えてしまうほど力がある。
不思議なものだなぁ。


ちょっと彼に話し掛けてみることにした。

「蝉尽火様」
「ん?あ、檜。どしたの?」
「いえ、蝉尽火様がいつもの調子じゃないのでどうしたのかと。」
「あは、そう見える?」

苦笑いをして頭を掻く彼。

「知ってるっけ、暁とのこと。」
「あぁ、はい。」
「…あんなことしなきゃ良かったのかも。」

寂しそうな顔をする彼を見るのは初めてだった。
彼はぽつりぽつりと僕に話してくれた。

「…まぁ、そのさ、俺は…色々嘘で固めたまま、アイツと付き合っちゃった訳で。元々俺が神様だったことも、俺がアトランタという人間ではないことも、最初は嘘にしてたし。俺はまだまだ嘘をついている。…彼女なのに、ねぇ。」

僕達も、蝉尽火様の事はあまり知らない。
ただこの方は、何度も複数の身体を有し、何度も複数の人々を愛した人だ。
そしてその体を利用して人間の世界観に触れた。
神であり、神じゃない世界を持つ方。
そんな彼には秘密が多い。
一人目、提灯だった時の戦争の話。
二人目、行燈だった時の人間達の醜さの話。
三人目、アトランタになった今の幼馴染の話。
彼は色んな人間として世界の一部となり、その世界に触れてきた。
そんな彼の思想は誰にも分からない。
それは彼が口にするまでは、ずっと彼だけの世界だ。

「…俺は本当に暁が好きなのかなって思う事もあるよ。」
「えっ」
「いや好きだよ!?好きだけどね…。好きだったら、何で言えないんだろうなって。」

確かに彼の言う通りだろう。
好きだったら、僕も包み隠さず伝えるべきだと思う。

「…言えばいいんじゃないでしょうか?」
「幻滅されそう。今はまだ、付き合ってる時間を楽しみたいし…」
「…それで良いならいいですけど、後々言った方が呆れられますよ。」
「だよねぇ」

いつものけらけらした蝉尽火様に戻る。
どうも、皮を被った様な笑顔。
無理してるのが見え見えだった。

「…蝉尽火さんって、案外嘘とか下手ですか?」
「何だよ急に!?」
「いえ、そう見えただけです。」

何か蝉尽火様が言っているけれど、僕は仕事をやらなければ。
でも、二人が幸せになれることを願っておこうかなと思う。
何だか上から目線だけれど。



























「そう思ったんですけど蝉尽火様。何で死んじゃったんでしょう。」