自己満の味噌煮

小説書く。難しい。

全部壊した男

手を結んで、開いて。繰り返す。

手はちゃんと残っていた。

起き上がろうと下半身に力を入れる。

足もちゃんと残っている。

姫と目を合わせようと振り向く。

姫はもう何も残っていなかった。

 

またこの世界に生を受けたが、やっぱりこの夢ばかり見る。

帝都が襲撃されてすぐのことだった。

もう何十年も前のことだが、今でも鮮明に思い出せるくらい胸が痛んだ出来事だった。

今でも胸が痛む出来事だ。何度も夢に見て、何度も冷や汗をかいた状態で起き上がってしまう。

その度に俺はコーヒーを飲んで、窓の外を眺めてみる。

まだ外の世界はボロボロだ。

あの時の帝都のように、何もかも焼けてしまっている。

しかしこれは全部俺がやったことだ。

姫を取り戻したくて、何百もの人の命を潰して魂さえもとことん利用し尽くした。

俺は最低最悪の人間になっていた。いつの間にか。

今は許してくれているが、コノシェンツアにはとても酷いことをした。

妻も子供たちも頻死に追いやったのだから、許してくれなくても仕方のないことを彼は許した。彼は寛大だ。

逆に、佐々木啓史…ケージは俺のことを一生許さないと言った。

彼の大事な人を消したのは間接的にだったが、それでも元凶は俺だ。

そんな俺のことを許さないと言った。これが普通だ。

一生このことを忘れるなとも言った。

俺に幸せになる資格はないとも言った。

それもそうだろう、分かっている。

だからこそ苦しみや後悔が溢れて止まない。

だからこそ二度目の恋が叶わないのも、一度目の恋を引き摺っているのも苦しいのだ。

俺はいつまでたってもこの二つの恋の間を行ったり来たりしている優柔不断な男だ。

行ったり来たりしてる癖に、それを成就させる資格はない。

苦しんでも苦しんでも、それは俺のした罪への罰だ。

仕方がないんだ。そう言い聞かせてる。

でもそれは逆に、あの人の好意を裏切ることでもある。

俺はもっと苛まれるのだ。二つの恋と自分の罪と罰に。

俺がしてしまったこと全部に、これからも苛まれながら生きていく。

死んでしまった思い出と、今も生きている思い出に挟まれて、優柔不断に生きていくしか道はない。

 

こんな俺でも優しくしてくれるあの人の声を思い出して、また俺は眠れなくなる。